「おじさん。ラーメン二つで」
「お前はいっつもそれだな。馬鹿の一つ覚えみたいに」
「これが一番美味いんだよっ」

 まるでラーメン以外は大したことないなんていう言い方だけど、それでもおじさんは笑っていた。やっぱり二人は仲がいい。

「そうだ、君。まだ私の名前を教えてないよね」

 お姉さんは、紙を取り出して、それにさらさらと二つの文字を書いた。

伊李(イリ)

「それが私の名前。言ってごらん。イリ」
「い・り?」
「そうだ。今度は君の名前を教えてよ」

 自分の名前を誰かに教えるなんて初めての経験だ。リト。漢字でどう書くのかは分からない名前。

「リトなら、こうかな?」

李斗(リト)

 きっと、お父さんもお母さんも文字が読めないから、その漢字が合っているのかさえ分からない。けれど、お姉さんがそう言うなら、それがボクの名前だと思いたかった。
 その紙くるくると丸めて、懐から取り出した、さっきボクが拾った銃弾の一部と同じもの――薬莢と言っていたかな――の中に入れる。すると、丸まっていたのがほどけて、振っても紙が落っこちなくなった。今度は、慣れた手つきで薬莢に鎖を通す。

「ほら、こいつ。さっき君が拾ったやつと交換」
「え!? いいんですか?」
「いいんですかって、交換とはいえ君の持っているものを取っちゃうんだぞ」

 そう言われても、ボクには自分で拾ったものよりも、お姉さんがくれたものの方が価値があるように思えてしまった。