とん、たん、とん――雨だ。

 トタンの屋根は雨音が良く響くから分かりやすい。それに透明なトタンだから、雨粒がわずかに透けて見えている。――こんなことを考えるのは何回目かな。

 雨だ。雨が降っている。そんな当たり前のことを何回も何回も心の中で呟いて、空っぽの時間を過ごす。何もすることがない。

「自由にしてなさい」

 なんてそんなこと言われたって、家には何もない。
 もう飽きた積木は、片づけたままで数年以上出していない。床の上に無造作に置いただけの箱馬の上には、折りかけの折り紙と、書きかけの落書きが散乱している。もう、興味がない。
 本もないし、それにあったって、ボクは“文字が読めない”。

 何もない、味気ないだけの部屋は、今にも崩れそうな土壁で縁取られている。その真ん中でお母さんは箱馬に腰かけながら手編みをしている。お父さんの仕事に比べれば、わずかだけど稼ぎにはなるらしい。

 もう限界だ。もともとずっと家事を手伝っていて、それで自由時間を貰ったのだけれど、貰ったところで持て余してしまった。お母さんは、ボクが疲れたと思って休ませたのだろうけど、ボクは最初から疲れてなんかいなかったんだ。
 地面がむき出しの床を歩いて、お母さんのもとへと。きっと苦い顔をされるけれど、退屈過ぎて耐えられない。

 「お母さん」とその声をボクが出しただけで、お母さんの顔がくしゃりと歪んだ。