「申し訳ございません。
お嬢様方のご入場を許可する訳にはまいりません。」
城の跳ね橋の前で衛兵達に止められる。
「意地悪ね。
さっきまでは頼んでもないのに入れてくれたのに。」
アリシアがにっこりと微笑む隣で、ソリスは剣に手を掛けた。
緊迫した空気に、水を差したのは他ならぬアリシア。
スッと手でソリス制すと肩をすくめる。
「いきましょう。
ここで粘る意味はないわ。」
「街での会話を聞かれていたのかもね。」
お堀の周りをゆっくり歩きながらアリシアは何かを探しているようなそぶりを見せる。
「あった。ここからなら鐘楼が見えるわ。」
深いお堀を挟んで見上げる壁の向こうには、鐘楼と、それを支える屋根が見えている。
大きく深呼吸すると、アリシアが胸の前で印を結ぶ。
「んふふふふふふっ。
あたしを本気で敵に回したこと、後悔するわよ。」
速くなく、遅くなく、呪《しゅ》を紡ぎ、指先まで丁寧に確認するように呪文を完成させていく。
「礫石陣(グラヴァル・サークル)!」
アリシアの掌から放たれた、小さな火花が城壁に這(は)う。
ヒビを入れるように縦横無尽(じゅうおうむじん)に走る火花は、簡単に城壁を瓦礫(がれき)に変える。
はずだった。
まるで何事もなかったかのように、城壁は外敵を拒むようにその姿を見せつける。
「あたしの魔法が、効かない。」
イラッとした空気を撒き散らして、アリシアがつぶやく。
「耐魔性(たいませい)とか言う問題でなく、これは完全に空間移動の原理が……。
うん。鐘、ループ、魔力……。」
何事かをつぶやき、思考の波にたゆたう。
「よし。」
何かしらの結論に至ったらしいアリシアは、手近に落ちていた石を拾うとそびえる壁に向かって投げつける。
ぽちゃん。
力なくカーブを描いた手の平ほどの石は、そのままお堀にダイブした。
「何がしたいのよ。」
ソリスの冷たいツッコミにアリシアはほんのり赤面した顔を向ける。
「うるさいわねっ。
ちょっとした実験よ。
魔法が壁の手前で消えるのは、壁自体に消去魔法がかけられているのか、
もしくは一帯の空間が歪められていて、発動した魔法自体を別のところに転送して吐き出しているのか。」
「前者なら、このあたしの礫石陣(グラヴァル・サークル)を防ぐなんて相当な力の持ち主よ。」
鼻息も荒く訴える。
「えっと、つまりは石が壁を越えるか、消えるかってことを確認したいわけね。」
ソリスは足元の手頃な石を拾うと、軽く手の上で弾ませた。
ヒュッ。
風を切る音を残して、ソリスの投げた石は悠々と壁を越えて行く。
「うん。物理的な問題はなし。」
(ま。いいけど。)
実験結果に満足したアリシアが腰に手を当て壁を見上げた。
お嬢様方のご入場を許可する訳にはまいりません。」
城の跳ね橋の前で衛兵達に止められる。
「意地悪ね。
さっきまでは頼んでもないのに入れてくれたのに。」
アリシアがにっこりと微笑む隣で、ソリスは剣に手を掛けた。
緊迫した空気に、水を差したのは他ならぬアリシア。
スッと手でソリス制すと肩をすくめる。
「いきましょう。
ここで粘る意味はないわ。」
「街での会話を聞かれていたのかもね。」
お堀の周りをゆっくり歩きながらアリシアは何かを探しているようなそぶりを見せる。
「あった。ここからなら鐘楼が見えるわ。」
深いお堀を挟んで見上げる壁の向こうには、鐘楼と、それを支える屋根が見えている。
大きく深呼吸すると、アリシアが胸の前で印を結ぶ。
「んふふふふふふっ。
あたしを本気で敵に回したこと、後悔するわよ。」
速くなく、遅くなく、呪《しゅ》を紡ぎ、指先まで丁寧に確認するように呪文を完成させていく。
「礫石陣(グラヴァル・サークル)!」
アリシアの掌から放たれた、小さな火花が城壁に這(は)う。
ヒビを入れるように縦横無尽(じゅうおうむじん)に走る火花は、簡単に城壁を瓦礫(がれき)に変える。
はずだった。
まるで何事もなかったかのように、城壁は外敵を拒むようにその姿を見せつける。
「あたしの魔法が、効かない。」
イラッとした空気を撒き散らして、アリシアがつぶやく。
「耐魔性(たいませい)とか言う問題でなく、これは完全に空間移動の原理が……。
うん。鐘、ループ、魔力……。」
何事かをつぶやき、思考の波にたゆたう。
「よし。」
何かしらの結論に至ったらしいアリシアは、手近に落ちていた石を拾うとそびえる壁に向かって投げつける。
ぽちゃん。
力なくカーブを描いた手の平ほどの石は、そのままお堀にダイブした。
「何がしたいのよ。」
ソリスの冷たいツッコミにアリシアはほんのり赤面した顔を向ける。
「うるさいわねっ。
ちょっとした実験よ。
魔法が壁の手前で消えるのは、壁自体に消去魔法がかけられているのか、
もしくは一帯の空間が歪められていて、発動した魔法自体を別のところに転送して吐き出しているのか。」
「前者なら、このあたしの礫石陣(グラヴァル・サークル)を防ぐなんて相当な力の持ち主よ。」
鼻息も荒く訴える。
「えっと、つまりは石が壁を越えるか、消えるかってことを確認したいわけね。」
ソリスは足元の手頃な石を拾うと、軽く手の上で弾ませた。
ヒュッ。
風を切る音を残して、ソリスの投げた石は悠々と壁を越えて行く。
「うん。物理的な問題はなし。」
(ま。いいけど。)
実験結果に満足したアリシアが腰に手を当て壁を見上げた。