「ようこそおいでになりました。
 お待ち申し上げておりましたよ。
 ソリス・レアード様。
 アリシア・ノベルズ様ですね。」

 城下町に入る大きな城門には左右に1人づつ、槍を携えた門兵が立ち、それよりも身なりのいい男がロール紙を伸ばして中の名前を確認している。

「はっっ!」
 午後の日差しは柔らかく、そろそろ夕方と言ってもいい時間帯。
(さっきまでは、夜だった……。)
 ソリスの手がロングソードの柄に伸びる。
「ソリスっ。」
 鋭いアリシアの声が飛んだ。
「だぁいじょぶだってっ。
 行くわよ。」

 先を急ぐ馬車の中、向い合わせに座る2人は低い声で言葉を交わす。
「いつから気付いてた?」
 ソリスが睨みつけるようにアリシアに問う。
「顔怖ぁ。
 あたしはこれで8回目。
 でも、もっと前があると思うわ。」
「はっ。8回目ぇ?」
 思わずトーンの上がる口元をソリスが手で押さえる。

「なんであたしに言わなかったのよ?」
「だってぇ、ご飯は美味しいし。まだまだ着たいドレスがあったんだもん。
 さっき見つけた大きなリボンの付いたシルバーのドレス、可愛いかったでしょ?
 ピンクのドレスも結構前から気になってるんだけど、なんかもうひと押し足りないのよねー。」
 頭を抱えるソリスの事など眼中になく、明らかに現状を楽しんでいる。

「それにしても。
 ソリスってば、いっつもあの黒のドレスなのよね。
 いい加減見飽きたって言うか。」
 クスッと笑うアリシアに、ソリスがイラッとした目を向ける。

「あたしにしてみたら全て1回目だったんだから、毎回同じ服を選ぶのも変なことじゃないでしょう?」
「シックっていうか、基本地味なのよ。」
「腹立つわねぇっ。
 無駄に着飾ってればいいってもんじゃないでしょっ?」
「無駄ってなによ。こんなにでっかいダイヤにはそうそうお目にかからないわよ!
 しっかりポケットに忍ばせたはずなのに、時間が戻ると無くなってるし。
 アクセもコーデのひとつだわ。」
 利き手を振り上げるアリシアに、ソリスも狭い車内でロングソードの柄に手を掛ける。

「お、お嬢様方。
 着きましてございます。」
 いつの間にか、動きの止まった馬車の扉からは御者がおずおずと声をかけてきた。

 見上げるほど大きな城は、いくつもの塔を持ち権力を誇示する力強さの中にも、優雅な気品を漂わせる。

 ライトアップされた大きな黄金の鐘楼。
 美しい曲線を描いて伸びる白い外階段。

「あの鐘楼、12時の鐘よね?
 とりあえず吹き飛ばしてみない?」
 ソリスの軽い提案にアリシアも鐘楼を見上げる。
「イヤよ。
 まだシルバーのドレス着てないもん。」


「で、なんで増えてんのよ。」
 悩み顔のアリシアの前に並ぶドレスは計8点。先程より増えている。
「最後だし。悔いなく着ておきたいじゃない。」
「そんなことより、何が原因だと思う?」
 ソリスはカラフルなカクテルドレスを何点か取り出しながら続ける。
「鐘楼の音が時間を戻してるのかな?」
「さあね。
 あたしが気付いたのは、客の1人が叫んでたのを聞いたのよ。
 ここはおかしいって……。
 その後からその男の顔、見てないのよね。
 しかも、あのペールブルーのドレスの女。
 あたしがこの現象に気付いている事に、気付いてるわよ。」

 さらりと流したアリシアの一言に、ソリスの手が止まる。
「鐘が鳴ると逃げるあの女?
 そう言えば、アリシア隠れてたわね。
 ……。この廊下で待ち伏せて、話しを聞いてみるか。」