「メッキ⁉」

 ギルドのあるような大きな町には、大抵大きな換金所がある。
 その一角にアリシアの大きな声が響き渡った。

 いつの間に回収していたのか、ポケットやナップザックの中に詰め込まれていたアクセサリーや、城を飾り立てていた調度品の数々が換金所のカウンターに並んでいる。

「そんなはずはないわよ。
 ちゃんと見てっ。
 これはね、それ相応のところから仕入れた。」
「その仕入れ先がすでに倒産してるじゃない。
 ドレスと言い、あのばーさんに一杯食わされたんじゃないの?」
 背中からかかる冷たいソリスの一言にピタリとアリシアの動きが止まった。

「くうううぅぅぅぅ。」

 何を言ってもメッキのアクセサリーはメッキのアクセサリー。
 銅貨1枚にもならない。


 あの後。
 神隠しの一件に巻き込まれていた被害者たちを連れて、ギルドのあるこの町までやってきた。
 まずはアリシアとソリスの事情聴取(じじょうちょうしゅ)。
 懸賞金を払うに値(あたい)するかと、被害者たちの話を聞く時間を使って、アリシアは換金所に足を運んでいた。
 ソリスには内緒で。

「なんかこそこそしていると思ったら、相変わらず手癖が悪いわね。」
「あんなところで足止めを食らって、無駄に魔力を放出したわりに稼ぎは懸賞金だけなんて、やってられないわ。」

 大きく髪をかきあげて、全く悪びれもせずにアリシアが換金所の扉をくぐる。
 表の通りはにぎやかな音楽とともに、人があふれかえっていた。

「あら、パレードかしら。
 イベントは稼ぎ時よ。」
 微笑むアリシアにソリスはげんなりとした顔を向ける。
「しばらく派手なイベントごととは関わりたくないわ。」

 そんな2人の前を、馬車に乗った上品な男女が悠然(ゆうぜん)と通り過ぎていく。
 年齢は50前後といったところか。
 しかしアリシアとソリスの目を引いたのはむしろ、その女性の容姿。

 キメの細かい見事な金髪に、整った顔。
 ペールブルーのドレス。

「ちょっと、待って。
 あの顔。」
 年齢こそ上がっているが、その面影は明らかに数時間前まであの閉ざされた空間でそれはそれは長い時間を否応なしに共有したあのお姫様。

「いたんだ。本体。」
 呆然とつぶやいたソリスの胸の内に、柔らかな安堵が広がった。
 優し気に手を振り、隣に座る男性とほほ笑み合い、民衆に応える。
 その姿は優雅さと強さを備えていた。

 その姿を見送り、ソリスは大きく伸びをする。
「さて、懸賞金をいただいたら宿で一眠りしよう。
 あの中でもちゃんと休めてたのか、なんだか時間の感覚がおかしいわ。」

 歩き出そうとしたソリスは、動かないアリシアを振り返る。

「ねぇ。あの小娘はいくつの頃だったのかしら。」
 考えるようにつぶやくアリシアの質問の意味がわからずに、ソリスはどういうことかと聞き直した。

「あたしたちが見ていた小娘は17、8ってところだったわよね。
 今通ったのは、50代。
 この30数年の差は何?

 あたしたちはあの空間の中で何日くらい……。
 ううん、何年(・・)くらい毎日を繰り返していたのかしら。」

 ひきつるようなアリシアの顔に、ソリスも背中が寒くなる。
「ちょっと待ってよ。
 この状態でアラフィフって可能性あり?」
「あら、じゃあむしろ美魔女って事で問題なし?」

「いや、問題あるわっ。
 どんだけプラス思考なのよ。
 とりあえず、ギルドに戻るわよ。」


 輝く太陽が人のあふれる大通りを照らす。
 朝日が昇り、夕日が沈む。
 繰り返しているように見えても、
 同じ毎日。なんて無い。

 進んだ先に光が差すか、闇が落ちるか。

 それは踏み出した者にしかわからないのかも知れない。


【終わ……】


「今日!
 何年何月何日?」
 ギルドのカウンターに勢いよく駆け込んだアリシアとソリスは、とりあえず3ヶ月弱の月日が流れていたことを突き付けられた。

「3ヶ月で済んだなら、いい方か。」
 安堵に胸を撫で下ろすソリスの横ではアリシアが大袈裟(おおげさ)に頭を抱えてうめき出す。

「稼ぎがっ。
 3ヶ月の稼ぎがたった1回分の懸賞金だけっ?」

【終わり】