「うーんっ!
 圧巻。」
 バーンっとアリシアが観音開きの大きな扉を開けると、中は見渡す限りのドレス畑。
 色別に分けられたカラフルな部屋は、普段充分にオシャレを楽しめない10代後半の彼女たちの心をしっかりと鷲掴んだようで。

「凄っ。」
 一瞬気後れしたソリスを他所(よそ)に、アリシアはすでに3着ほどをピックアップし、鏡の前でファッションショーが始まっている。

 濃紺に銀のグリッターを散りばめたシックなドレス。
 エメラルドの瞳に似た、柔らかなシフォンのドレス。
 榛色(はしばみいろ)の髪に映える薄いピンクの花をあしらったドレス。

「今日はエメラルドの気分かな。」
 濃紺のドレスも相当捨てがたかったようだが、後ろ髪を引かれる事なくハンガーを戻す。
「ソリスはあの辺りの色がいいんじゃない?」
 指差す先にはシックな黒のドレスが並んでいる。

 あまり派手な色が好みではないソリスは、3つ目にかかっていた銀糸を織り込んだシルク生地のタイトドレスを手に取る。
 動く度に表情の変わる、その煌めきには充分に満足したようで、それぞれが更衣室へと入って行った。


「って、なんでこんな所でご飯食べてるわけ?」
 所狭しと料理の並ぶテーブルの1つに陣取って、2人はディナーに舌鼓。
 中央では、楽団の生演奏に多くの男女がダンスを楽しんでいる。
「いいじゃない。
 綺麗なドレスを着て、美味しい物を頂く。
 役得役得。」
 アリシアが何枚目かのローストビーフを口に運んだところで、大きなざわめきが起こった。

「なんと美しい。」
「まるで精霊のようだ……。」
 口々に褒める声に人垣が割れて、1人の女性が歩いてきた。
「うっわ。美人。」
 ソリスの言葉に、アリシアは女性を見ようともせず、むしろソリスの陰に入ってしまう。
 おそらくソリスより少し年下だろうと思われるその女性は、見事な金の髪に大きな青い宝石のついたペンダントをかけ、ペールブルーのドレスがよく似合っていた。

 中央のダンスフロアにたどり着いた彼女は、近づいて来た王子様に手を取られ、見事なダンスを披露し始める。

「あれ? アリシアは王子にアピールしに行かないの?
 こんな玉の輿チャンス、そうそうないわよ。」
 ちょっと意地悪く笑うソリスをアリシアが睨みつける。
「しつこい。」
(しつこい?)
 違和感のあるアリシアのセリフに、ソリスが意味を尋ねようとして、頭上に鳴り響く鐘の音にタイミングを逸した。

「プリンセスっ!」
 中央のダンスフロアでは、急に走り出したペールブルーのドレスの姫を追って、王子がテラスへ飛び出して行く。

「12時の鐘が鳴り終わるわ。」
 アリシアの、テラスを見ながら呟いた無感情なひと言に、ソリスは口を開こうとして……。