「城の中にいた連中はどうなったのかしらね。」
 鐘楼や外階段のあった辺りを見るようにつぶやくソリスの声に、アリシアが反応する。

「そうよ。
 証人がいるじゃない。
 あいつらに神隠しの一件の証人になってもらえばいいんだわ。」
 ボロボロドレスもなんのその。
 走り出したアリシアの後を、ソリスはゆっくりと歩き出した。



 アリシアの打ち出した光球(ライティング)の光が煌々(こうこう)と辺りを照らす中、崩れ落ちた鐘楼の近くには同じように古ぼけた服を着た多くの男女が身体(からだ)を寄せ合う。

 アリシアがことのあらましを説明し、この瓦礫(がれき)の城で夜明けを待つことで話はまとまった。
 話を聞いた中には神隠しの噂を知っている者もいて、どうやら証人には問題なさそうではあるが。

「いない。」
 ざわめく人たちの外側で、ソリスのつぶやきにアリシアが反応する。
「なによ。
 探し人?」

「ん。
 ココじゃちょっと……。
 着替え、探しに行くでしょ?」



 外に残されていくことを拒(こば)んでいた人たちをアリシアの創(つく)りだした結界の中に押し込んで、崩れた城の中へと足を進めていく。

「で?」
 頭の上をふよふよと漂う光球(ライティング)と共に、2人の足音だけが響く通路は細かな瓦礫が散乱し、何年も放置されていたであろうことは疑う余地もない。

 アリシアの短い問いかけに、ソリスは口を開く。
「お姫様、ばーさん。
 1人登場人物が足りないわ。
 王子様はどこに行ったのかしら。

 あたしたちも含めて、ここに残っているのはパーティに強制参加させられていた人たちばっかりよ。
 主催者が誰も出てこない。」

 衣裳部屋の大きな扉を押し開き、暗闇に立ち並ぶドレス畑に足を踏み入れる。

「ふうぅぅ。
 なんか精神的なショックが隠し切れないわ。」
 いずれもくすんで、古びたドレスの中を縫うようにして進んでいくアリシアが大きく息を吐いた。

「まあね。
 あれだけキレイに見えていたのにね。」

 自分の服を見つけ出し、更衣室へと入るアリシアも疑問を口にする。
「気になることはまだあるわ。
 これだけの大掛かりな仕掛けを作っていたにしては、あのババァが脆(もろ)すぎた。
 それと、小娘の消えたペンダント。」

「なんにせよ、次は消えた王子様探し?」
「それはもう無理ね。」
 ソリスの提案を、更衣室から出てきたアリシアが否定する。

「実体だったかも怪しいところだけど、バトルに参加していなかった時点で、あたしが王子なら逃げるが勝ちよ。
 ペンダントはいつまで小娘が持っていたか覚えてる?」

「確か、バトルの最中にはあった。
 凍る直前まではあったと思う。」
 一度は叩き伏せ、とどめを刺そうとした一幕がソリスの脳裏によみがえる。
「影、人形。」
 考えをまとめるようにつぶやくアリシアに、ソリスが口を挟んだ。

「あの小娘を動かしていたのは黒い刃の方だった。
 太刀(たち)は鋭かったのに、体捌(からださば)きはまるで素人。」
「イヤな感じね。
 本当にあやつり人形じゃない。」
 憎々しげなアリシアの視線が暗い天井を仰いだ。