「終わり……かな。」
立ち上がり、剣を収めたソリスが氷の彫刻と化した姫に視線を向けた。
(この娘(こ)は結局あのばーさんに利用されていただけだったのかな。
心根の優しい子。か。
復讐心の塊(かたまり)っていうよりは、思い出の中に生きてるって感じだった。
利用されていることに耐えられなくても、逃げ出すことも出来なかった。
あたしに協力してくれたのは、あの娘の最後の抵抗だったのか、単に助けて欲しかったのか……。
良いように考えすぎかな。)
ソリスの唇が小さく微笑む。
(本体がもし存在するのなら、せめてそっちは幸せになっていてくれればいいんだけど。)
ゆっくりと背を向けて、アリシアを振り返る。
両手で顔を覆うアリシアが、しゃがみこんでいた。
「どうした。
あのばーさんは?」
剣を収め、辺りを見回すソリスの視線が城で止まる。
「見て。」
ソリスの声に、アリシアも顔を上げた。
黒い影とも塵ともつかないモノが、一斉(いっせい)に星空に舞い上がっていく。
目の錯覚が、立ち昇る影の隙間に映る星を降らせるように見せてきた。
ソリスは何気なく思い立ち、ペールブルーのドレスを着た、美しい彫刻に瞳を向けた。
アリシアの放った光球(ライティング)が反射する。
氷の中はただ、ウエストの裂けた色褪(いろあ)せたドレスだけが、今にも動き出しそうに閉じ込められていた。
「城が崩れていく。」
つぶやいたアリシアが間隔を開けて数個の光球(ライティング)を撃ち出すと、美しかった城は崩れた石の土台をさらす。
完全に廃墟と言ってもいい古城が、夜の闇に虚(うつ)ろな姿を表した。
「ババァが消し飛んだことで、魔法が解けた。」
「消し飛んだぁ?」
アリシアの一言に、ソリスが振り返る。
「生け捕りにしないと、神隠しの一件の立証が出来ないじゃない!
懸賞金。出ないかもよ。」
「わかってる。
このあたしがこんな事で懸賞金を逃すだなんて。
立ち直れないわ。
そもそも電撃食らったくらいで消し飛ぶなんて思わないじゃないっ。
絶対人間じゃなかったし、あんな形(なり)でも絶対魔物の類(たぐ)いだったしっ。
心臓麻痺の心配までもしてられないわよ。」
訴えるアリシアの姿に、ソリスはその頭の先から足の先までを一瞥(いちべつ)する。
「まあ、消えちゃったモノは仕方がないわ。
なんか、あっさりしすぎてる気もするけど。
それよりばーさんが消えたことで、城以外にも影響が出てるみたいよ。」
ソリスは自分の上着を主張するようにピッと引っ張る。
「は?」
いぶかしげな顔をしたアリシアが自分のドレスに目をやった。
「んなっ!
何よこれ。」
ふわふわしたチュチュのようなスカートは、繊維(せんい)がほつれて崩れているし、何より鮮やかだったブルーが色あせて、みすぼらしいくすみが全体を覆っている。
(バトルに入る前に着替えておいてよかった。)
ドレスでは立ち回りに無理がある。着替えた理由はそこにあるが、ソリスとて19歳の女の子。
アリシアには悪いと思うが、このドレスは遠慮したいところだろう。
首元を飾るネックレスも、輝きを放っていた髪飾りも、くすんで見える。
「小娘の着(つ)けてたでっかいサファイア。
あれはどうなったの?」
アリシアはかけ寄る氷の彫刻の前で眉をひそめた。
「ドレスしかない。
あたしのアクセはくすんでも残っているのに、あのサファイアは消えてる。
しかも氷の中から……。」
立ち上がり、剣を収めたソリスが氷の彫刻と化した姫に視線を向けた。
(この娘(こ)は結局あのばーさんに利用されていただけだったのかな。
心根の優しい子。か。
復讐心の塊(かたまり)っていうよりは、思い出の中に生きてるって感じだった。
利用されていることに耐えられなくても、逃げ出すことも出来なかった。
あたしに協力してくれたのは、あの娘の最後の抵抗だったのか、単に助けて欲しかったのか……。
良いように考えすぎかな。)
ソリスの唇が小さく微笑む。
(本体がもし存在するのなら、せめてそっちは幸せになっていてくれればいいんだけど。)
ゆっくりと背を向けて、アリシアを振り返る。
両手で顔を覆うアリシアが、しゃがみこんでいた。
「どうした。
あのばーさんは?」
剣を収め、辺りを見回すソリスの視線が城で止まる。
「見て。」
ソリスの声に、アリシアも顔を上げた。
黒い影とも塵ともつかないモノが、一斉(いっせい)に星空に舞い上がっていく。
目の錯覚が、立ち昇る影の隙間に映る星を降らせるように見せてきた。
ソリスは何気なく思い立ち、ペールブルーのドレスを着た、美しい彫刻に瞳を向けた。
アリシアの放った光球(ライティング)が反射する。
氷の中はただ、ウエストの裂けた色褪(いろあ)せたドレスだけが、今にも動き出しそうに閉じ込められていた。
「城が崩れていく。」
つぶやいたアリシアが間隔を開けて数個の光球(ライティング)を撃ち出すと、美しかった城は崩れた石の土台をさらす。
完全に廃墟と言ってもいい古城が、夜の闇に虚(うつ)ろな姿を表した。
「ババァが消し飛んだことで、魔法が解けた。」
「消し飛んだぁ?」
アリシアの一言に、ソリスが振り返る。
「生け捕りにしないと、神隠しの一件の立証が出来ないじゃない!
懸賞金。出ないかもよ。」
「わかってる。
このあたしがこんな事で懸賞金を逃すだなんて。
立ち直れないわ。
そもそも電撃食らったくらいで消し飛ぶなんて思わないじゃないっ。
絶対人間じゃなかったし、あんな形(なり)でも絶対魔物の類(たぐ)いだったしっ。
心臓麻痺の心配までもしてられないわよ。」
訴えるアリシアの姿に、ソリスはその頭の先から足の先までを一瞥(いちべつ)する。
「まあ、消えちゃったモノは仕方がないわ。
なんか、あっさりしすぎてる気もするけど。
それよりばーさんが消えたことで、城以外にも影響が出てるみたいよ。」
ソリスは自分の上着を主張するようにピッと引っ張る。
「は?」
いぶかしげな顔をしたアリシアが自分のドレスに目をやった。
「んなっ!
何よこれ。」
ふわふわしたチュチュのようなスカートは、繊維(せんい)がほつれて崩れているし、何より鮮やかだったブルーが色あせて、みすぼらしいくすみが全体を覆っている。
(バトルに入る前に着替えておいてよかった。)
ドレスでは立ち回りに無理がある。着替えた理由はそこにあるが、ソリスとて19歳の女の子。
アリシアには悪いと思うが、このドレスは遠慮したいところだろう。
首元を飾るネックレスも、輝きを放っていた髪飾りも、くすんで見える。
「小娘の着(つ)けてたでっかいサファイア。
あれはどうなったの?」
アリシアはかけ寄る氷の彫刻の前で眉をひそめた。
「ドレスしかない。
あたしのアクセはくすんでも残っているのに、あのサファイアは消えてる。
しかも氷の中から……。」