「さてと、散々やらかしてくれたわね。」
アリシアが白く華奢な利き腕を前面に伸ばす。
その左隣に立つソリスも音を立てて大きく剣を振り、正面に切っ先を向けた。
「夜が明けないってことは、時間が正常に動き出したってことかしらね。」
アリシアの魔法を警戒してか、影は姫を中心に色を濃く集めたままウヨウヨとこちらを伺っているようにも見える。
「何なのよ、あれ。」
「さあね。
あれを見た時、何を感じた?」
影の動きに注意を払いつつ、ソリスの質問にアリシアも質問で返す。
「何を……?」
叫び声
頭を抱える
飛び出す
「悪意。」
「あたしも感じた。
絶望、恐怖、怨恨(えんこん)。
そういうの、欲しがるヤツがいるのよね。」
何かを思い出そうとするようにアリシアが呟く。
「あのばーさん……。」
コココ……。
ソリスの耳が小さな音を拾う。
靴底に微(かす)かに感じる振動。
(なんだ?)
足元にチラリと視線を落とした瞬間、肌を刺すような殺気を感じてアリシアの身体を引き寄せると、大きく左側に跳ぶ。
裂けた大地から噴き出すように、切っ先を向けた影が躍り出た。
「爆炎輪舞(フレイム・ロンド)っ。」
着地する間もなく、追いすがる影の槍に向かいアリシアの手のひらが炎の帯を噴き出すと、槍を絡める螺旋(らせん)の炎が絞め焼き切る。
「飛翔空《ウィング・エア》っ。
ちょっと城下町に飛ぶわよ。」
爆炎の放つ風の勢いに乗り宙を滑るアリシアとソリスをすくい上げて、地面のスレスレを疾走する風の魔法がアリシアの意思に従って高度を上げていく。
「城下町に何の用事よ。」
「あの影は明らかに魔力の干渉を受けてるわ。
昼間城下町で、後見人を名乗ったあのババァが言ったこと覚えてる?」
アリシアのウエストにしがみついたまま剣を鞘に納めるソリスが眉をひそめる。
「えと……。」
崩れた鐘楼を遠目に壁を乗り越えようとさらに高度を上げる螺旋の風が、急に何かに行く手を阻(はば)まれた。
「きゃああっ。」
弾き飛ばされるように、後方に宙を舞うアリシアの口を悲鳴がつく。
どうにかアリシアを離さずに耐えたソリスは、すぐさま身体を捻ると地面の向きを確認する。
足から着地できるように体勢を整え、地面を削(けず)るような音を立てたソリスのブーツは、アリシアと共に大きなケガもなく着地した。
「危ねー。」
安堵の息を吐くソリスの小脇に抱えられたアリシアが、振り乱された頭を上げる。
「なんなのよっ!」
「あれだ。
外からの攻撃魔法が壁に弾かれたやつ。
中からも魔力を通さないんだ。」
「いい仕事してるじゃないの!
腹立つわねっ。」
「褒めてんの?
キレてんの?」
「どっちもよっ!」
「忙しいわねぇ。
昼間はどうやって城内に侵入したのよ。」
アリシアを下ろし、並んで走り出す。
「注意が逸れた時を見計らって、跳ね橋を歩いて渡ったの。」
「結局人力に勝るものなしね。」
アリシアが白く華奢な利き腕を前面に伸ばす。
その左隣に立つソリスも音を立てて大きく剣を振り、正面に切っ先を向けた。
「夜が明けないってことは、時間が正常に動き出したってことかしらね。」
アリシアの魔法を警戒してか、影は姫を中心に色を濃く集めたままウヨウヨとこちらを伺っているようにも見える。
「何なのよ、あれ。」
「さあね。
あれを見た時、何を感じた?」
影の動きに注意を払いつつ、ソリスの質問にアリシアも質問で返す。
「何を……?」
叫び声
頭を抱える
飛び出す
「悪意。」
「あたしも感じた。
絶望、恐怖、怨恨(えんこん)。
そういうの、欲しがるヤツがいるのよね。」
何かを思い出そうとするようにアリシアが呟く。
「あのばーさん……。」
コココ……。
ソリスの耳が小さな音を拾う。
靴底に微(かす)かに感じる振動。
(なんだ?)
足元にチラリと視線を落とした瞬間、肌を刺すような殺気を感じてアリシアの身体を引き寄せると、大きく左側に跳ぶ。
裂けた大地から噴き出すように、切っ先を向けた影が躍り出た。
「爆炎輪舞(フレイム・ロンド)っ。」
着地する間もなく、追いすがる影の槍に向かいアリシアの手のひらが炎の帯を噴き出すと、槍を絡める螺旋(らせん)の炎が絞め焼き切る。
「飛翔空《ウィング・エア》っ。
ちょっと城下町に飛ぶわよ。」
爆炎の放つ風の勢いに乗り宙を滑るアリシアとソリスをすくい上げて、地面のスレスレを疾走する風の魔法がアリシアの意思に従って高度を上げていく。
「城下町に何の用事よ。」
「あの影は明らかに魔力の干渉を受けてるわ。
昼間城下町で、後見人を名乗ったあのババァが言ったこと覚えてる?」
アリシアのウエストにしがみついたまま剣を鞘に納めるソリスが眉をひそめる。
「えと……。」
崩れた鐘楼を遠目に壁を乗り越えようとさらに高度を上げる螺旋の風が、急に何かに行く手を阻(はば)まれた。
「きゃああっ。」
弾き飛ばされるように、後方に宙を舞うアリシアの口を悲鳴がつく。
どうにかアリシアを離さずに耐えたソリスは、すぐさま身体を捻ると地面の向きを確認する。
足から着地できるように体勢を整え、地面を削(けず)るような音を立てたソリスのブーツは、アリシアと共に大きなケガもなく着地した。
「危ねー。」
安堵の息を吐くソリスの小脇に抱えられたアリシアが、振り乱された頭を上げる。
「なんなのよっ!」
「あれだ。
外からの攻撃魔法が壁に弾かれたやつ。
中からも魔力を通さないんだ。」
「いい仕事してるじゃないの!
腹立つわねっ。」
「褒めてんの?
キレてんの?」
「どっちもよっ!」
「忙しいわねぇ。
昼間はどうやって城内に侵入したのよ。」
アリシアを下ろし、並んで走り出す。
「注意が逸れた時を見計らって、跳ね橋を歩いて渡ったの。」
「結局人力に勝るものなしね。」