「プリンセスっ!」
 ホール内に響き渡る12時を知らせる鐘楼の音に、またペールブルーのドレスの姫は外に通じる螺旋階段に向かい走り出す。

「飛翔空《ウィング・エア》っ。」
 鐘の音を合図に、目の前でダンスを見学していたアリシアも辺りを巻き込む突風を巻き起こし一気に天井近くまで駆け上がった。

 前回の様な遅れは取らない。
 開け放たれたガラスの扉から後を追おうとした王子を弾き飛ばし、螺旋階段に沿うように飛んだかと思うと、そのまま姫を追い越しライトアップされた鐘楼を目指す。

 そのアリシアの姿を見て、姫は途端にキョロキョロと辺りを見回しだした。
「探しているのは、あたしのことかしらね。」
 階段も残り十数段。
 馬車の陰から姿を出したソリスに、姫は不安な表情を見せる。

 服装はシックなサーキュラースカートから、いつもの剣士姿に戻してある。
 大体あんなひらひらした格好では剣もロクに振るえない。

「馬車なら動かないわよ。
 毎晩毎晩、御者(ぎょしゃ)も強制過重労働でダウンだってさ。」
 本当は先回りしたソリスがボディに一撃をたたみ込み、強制的にダウンさせた後で馬車の中に転がしてある。

 鐘の音が9回目を数えた。

 鐘が鳴り切れば、また振り出しからか。
 アリシアの実験が成功するか。

 猛スピードで宙を駆け抜けたアリシアは、鐘楼を目の前に臨む塔の上にふわりと降り立つ。
「烈火球(ファイアー・ボール)。」
 掲(かか)げた両手の中で、空気を割いた炎が立ち上り球体を作りあげた。
 闇夜に浮かぶ鐘楼に向かい、尾を引きながら一直線に突き進む。

 着弾。
 そして炎と熱風にさらされ、崩れる鐘楼。

「……が理想だったんだけどなぁ。」
 ポツリとつぶやいたアリシアの目に映るのは、昼間の外壁と同じように無傷の鐘楼。
 その鐘楼が10回目の時を刻む。

 やはり建物は魔力の干渉を受け付けない。
「それなら、物理攻撃よっ!
 爆風刃(ブラスト・ブレード)っ。」
 再度、アリシアの力ある言葉が魔力を不可視の風の刃に変える。

 鐘楼をライトアップする光に大鎌の様な鋭利な残像が映りこみ、すぐそばに大きく茂った大樹を2本なぎ倒していった。
 年輪を重ねた太い幹が鋭利な断面をさらす。

 崩れた幹は重なるように鐘楼を目指し、大きく枝を広げたまま抱きこむように鐘楼を支えるその塔飲み込んだ。

 11回目の鐘が鳴り響く最中(さなか)、ガラガラと音を立て崩壊する塔の音に重なるように、鐘楼はむなしく大地に打ちつけられ、その音を止めた。

 風の音も、瓦礫(がれき)の音も、消えた。
 その一瞬の静寂(せいじゃく)。


「いやあああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」


 闇夜を裂く悲鳴は乙女の姿を悪魔に変えた。