「あら、思ったより早かったわね。」
どうにかたどり着いた衣装部屋の中で、ソリスがググっとアリシアに詰め寄る。
「早かったじゃないわよ。
空中から投げ捨てておいて。
危うく死ぬところだわっ。」
「生きてるじゃない。」
さらりと流すアリシアは、目の前にずらりと並べたドレスを選別するのに忙しいらしい。
その数……。
「数えんのもめんどくさい。」
言っても応(こた)えないのはいつものこと。
諦(あきら)めの小さなため息とともに、ソリスも部屋を埋め尽くすドレスの森に足を踏み入れた。
「さぁてぇとぉぉぉ。」
愛らしいふわっふわのブルーのチュチュをそのままドレスにしたようなスカートを膨らませて、アリシアがグッと伸びをする。
その手に一輪の赤いバラ。
「どうしたのよ、その花。」
なんとなく目に留まり、ソリスが疑問を口にする。
「きれいでしょ?
衣裳部屋の近くの西側の庭園でもらって来たの。」
花弁が唇に触れる。
「んっふっふ。
そろそろ終結させるわよ。」
微笑んで黙って立っていれば、その容姿に似合うこれ以上なく可愛らしいいでたち。
今は沸々と内側の真っっ黒な怒りが顔に現れている。
「アリシア。
顔がヤバいわよ。」
剣の持ち込みは制限される。
ソリスの着る黒いファーをあしらったシックなドレスは、回転したときに綺麗に広がるようにフレアが沢山取ってあるサーキュラースカート。
その下には太ももにロングソードが鞘ごと括(くく)り付けられている。
瞳を閉じ、大きく息を吸ったアリシアがゆっくりと息を吐きだすと共に、瞳を開く。
花が咲きこぼれるような柔らかく可憐な微笑みが咲き誇った。
(男って、こういうのにコロッと騙されるのよね。
アリシアもちゃんとツボを押さえてるんだけど。
女って怖っ。
あたしも女だけど。)
ホールにつながる廊下からは、明るい夢を見せてくれる舞台の入り口が輝きを放って見える。
「大体、あたしたちにケンカを売ろうなんて身の程知らずもいいところだわ。
死ぬほど後悔させてやる。」
紡(つむ)ぐ言葉とは裏腹な、優しい微笑みがアリシアのふっくらと柔らかそうな唇に乗った。
「お聞きになりました?
西側の庭園で植木の燃えるボヤがありましたのよ。」
「まあ。
あそこは庭師も手の込んだ植木を育てていましたのに。
バラは無事でしたかしら。」
耳に入った会話に、ソリスの瞳がアリシアの持つ真紅のバラを見る。
「何してきたのよ。」
「ここはディナーを出してるのよ。
と言うことは食材を切って、火を通してる。
魔法で建物は破壊できなかったけど、植物は魔法の炎で燃えたの。
窓ガラスも魔法は防いだのに、石を投げたら割れたのよ。
何か一定の約束事があるみたい。」
アリシアの瞳が、強くダンスホールを睨(にら)みつける。
(確かに。鐘楼塔内部の扉の鍵も斬り落とせた。)
「昼間はあの立派な鐘楼を狙って賊(ぞく)が侵入したなんて騒ぎもございましたものね。
まだ逃げおおせているようですのよ。」
「賊ですってよ。
まあ、怖い。」
ニヤリと笑うアリシアの視線を、今度はソリスが睨みつけた。
テーブルに並べられた豪華な食事の数々に、上流階級風な奥様達のお上品な噂話。
アリシアとソリスの前をペールブルーのドレスの姫は、彼女をほめたたえる言葉とともにゆっくりと通り過ぎて行く。
ペンダントの宝石と同じ、その青い瞳がここからは抜けられない2人に満足するように微笑んで映った。
「んっふっふ。
正体不明の幻影退治(ファントム・バスター)。
やってやろうじゃない。」
アリシアは手に持った一輪の真っ赤なバラを、泡の煌(きら)めくシャンパングラスに差し入れた。
どうにかたどり着いた衣装部屋の中で、ソリスがググっとアリシアに詰め寄る。
「早かったじゃないわよ。
空中から投げ捨てておいて。
危うく死ぬところだわっ。」
「生きてるじゃない。」
さらりと流すアリシアは、目の前にずらりと並べたドレスを選別するのに忙しいらしい。
その数……。
「数えんのもめんどくさい。」
言っても応(こた)えないのはいつものこと。
諦(あきら)めの小さなため息とともに、ソリスも部屋を埋め尽くすドレスの森に足を踏み入れた。
「さぁてぇとぉぉぉ。」
愛らしいふわっふわのブルーのチュチュをそのままドレスにしたようなスカートを膨らませて、アリシアがグッと伸びをする。
その手に一輪の赤いバラ。
「どうしたのよ、その花。」
なんとなく目に留まり、ソリスが疑問を口にする。
「きれいでしょ?
衣裳部屋の近くの西側の庭園でもらって来たの。」
花弁が唇に触れる。
「んっふっふ。
そろそろ終結させるわよ。」
微笑んで黙って立っていれば、その容姿に似合うこれ以上なく可愛らしいいでたち。
今は沸々と内側の真っっ黒な怒りが顔に現れている。
「アリシア。
顔がヤバいわよ。」
剣の持ち込みは制限される。
ソリスの着る黒いファーをあしらったシックなドレスは、回転したときに綺麗に広がるようにフレアが沢山取ってあるサーキュラースカート。
その下には太ももにロングソードが鞘ごと括(くく)り付けられている。
瞳を閉じ、大きく息を吸ったアリシアがゆっくりと息を吐きだすと共に、瞳を開く。
花が咲きこぼれるような柔らかく可憐な微笑みが咲き誇った。
(男って、こういうのにコロッと騙されるのよね。
アリシアもちゃんとツボを押さえてるんだけど。
女って怖っ。
あたしも女だけど。)
ホールにつながる廊下からは、明るい夢を見せてくれる舞台の入り口が輝きを放って見える。
「大体、あたしたちにケンカを売ろうなんて身の程知らずもいいところだわ。
死ぬほど後悔させてやる。」
紡(つむ)ぐ言葉とは裏腹な、優しい微笑みがアリシアのふっくらと柔らかそうな唇に乗った。
「お聞きになりました?
西側の庭園で植木の燃えるボヤがありましたのよ。」
「まあ。
あそこは庭師も手の込んだ植木を育てていましたのに。
バラは無事でしたかしら。」
耳に入った会話に、ソリスの瞳がアリシアの持つ真紅のバラを見る。
「何してきたのよ。」
「ここはディナーを出してるのよ。
と言うことは食材を切って、火を通してる。
魔法で建物は破壊できなかったけど、植物は魔法の炎で燃えたの。
窓ガラスも魔法は防いだのに、石を投げたら割れたのよ。
何か一定の約束事があるみたい。」
アリシアの瞳が、強くダンスホールを睨(にら)みつける。
(確かに。鐘楼塔内部の扉の鍵も斬り落とせた。)
「昼間はあの立派な鐘楼を狙って賊(ぞく)が侵入したなんて騒ぎもございましたものね。
まだ逃げおおせているようですのよ。」
「賊ですってよ。
まあ、怖い。」
ニヤリと笑うアリシアの視線を、今度はソリスが睨みつけた。
テーブルに並べられた豪華な食事の数々に、上流階級風な奥様達のお上品な噂話。
アリシアとソリスの前をペールブルーのドレスの姫は、彼女をほめたたえる言葉とともにゆっくりと通り過ぎて行く。
ペンダントの宝石と同じ、その青い瞳がここからは抜けられない2人に満足するように微笑んで映った。
「んっふっふ。
正体不明の幻影退治(ファントム・バスター)。
やってやろうじゃない。」
アリシアは手に持った一輪の真っ赤なバラを、泡の煌(きら)めくシャンパングラスに差し入れた。