この2人はまだ中庭か……?中庭からここまで届く声量って相当だぞ。先生に捕まるんじゃないか?
「……ごめん、広樹。付き合わせて。帰っていいよ」
その聞こえてきた声に気を取り戻したのか、白崎から声をかけられる。
泣き声は止まっていた。鼻水をすする音は聞こえるけど。
「横澤のこと、好きだった?」
「……っ、あんたねぇ!」
「だってここで吐き出しておかないと、引きずらない?別に引きずらないなら俺は帰るけど」
「……」
傷口を抉るような質問をしたのはすまんと思っている。
けど、失恋の時に恨み言ひとつ吐き出しとかないと次に進めないと姉ちゃんが言っていた。
姉ちゃんはそんな言葉で正当化して、酒を煽るから性質が悪いけど。
「……好きだった。好きだったんだ」
ぽつり、と彼女がこぼす。
色男には届かなかった想い。
「横澤に好きな子がいるってこと、振られてもなおその子が好きだってことも知ってた。その女の子が今日広樹と一緒にいた子だってことも、見た瞬間分かった」
「えっ、そーなん?」
「確証はないけど……女の勘」
なるほど……その仮説が正しければ、腑に落ちる。
横澤が不機嫌だった理由も。
彼女が隠れていた周りの雑草が乱雑に抜け落ちていたのも。
「昨日、駅で見かけたんだよね。横澤と、たぶんさっきの女の子。女の子は後ろ姿だったから微妙だけど……南の制服着てたし。なにより、横澤の表情がすごく柔らかかったんだよね。見たことないそれ見て、やばいって焦っちゃった。意識を少しでもこっちに持ってこなきゃって」
彼女はぐす、と歪む表情をティッシュで拭う。
「伝えてしまえば、あとは同じ学校だから彼女より私が有利だと思ったんだけどなあ。……あの子の、他校も関係なく、踏み越えられてこられる行動力を目撃すると、敗北を感じるしかないよ」