「太るぞ」

「たくさん勉強してエネルギー消費してきたのでご心配なく〜」


注文を受けた店員が去り、俺の余計な一言にも余裕の笑みと共に言い返してくる。


あの頃、可愛いと思っていた彼女に対して、今は何も思わない。



メッセージを送ってすぐについた既読に対して。

メニューに真剣に悩む仕草に対して。

あの頃は彼女の一挙一動に胸がくすぐられるような感覚に陥っていた。

 
「…熊沢、今日は助かった」

「こちらこそ、呼んでくれてありがとう。来てよかった」



あの2人がうまくいくといい。

今日集結したのはお互いにそんな根底があったからだ。


こうして対面して会うのはおよそ1年ぶり。

会えてよかった。



彼女への気持ちがないことを再認識できたから。



食事を終えるまで、彼女との会話は世間話ばかりだった。

 
共通の同級生の現在。

中学の恩師の話。

大学受験へ向けて行っていること。

過去と現在の話。

未来の話は一切出なかった。




「あ、そろそろ私いくね」

机上にあった彼女のスマホの通知音が鳴る。


「はい、私と蘭の分」

そういって、彼女は千円札を伝票のバインダーに挟んだ。


「多いんじゃね」

「私は奢られる義理ないもん。福山は蘭の突撃訪問の労いってことで」



急な呼び出しに対して、おまえは奢られる義理あると思うけど。

ーーーと、言おうとして、彼女の視線がすでに俺に向けられていないことに気づく。


スマホの画面。財布を片付けるスクールバッグ。


「じゃあありがたく」

「うん、それじゃあ……元気で」

「そっちも」

 
最後、彼女がようやくこちらに向けた顔は晴れ晴れとしていて、俺もそれに応える表情をしていたと思う。



俺は、横澤とは違って、彼女に告白して、付き合って、別れた。お互い話し合って、納得して。

一度交わって、別離を選んだ。

お互い違う相手と、未来の話をする。



あいつは、告白して、振られて。それでもつかず離れず、警戒心もなく、平行線のまま。

過去の話も、現在の話も。未来の話も、する。

そんなの自惚れる。離れ難くなる。




"2人はどうやってトモダチに戻れたの?"

 
うるさい小杉はさっきそんなこと聞いてきてたけど、戻ったんじゃない。


ただの同級生にリセットされただけだ。

だから、今後、俺と熊沢の道は交わることはないんだよ。





「はーー、うん。いい時間だった。…ーーーに。」