「おーっと。青春ですねぇ」


自身のスクールバッグと、ずっと大事そうに抱えていた相棒のブレザーと共に飛び出していった同級生の背中を見送る。


いつもうるさい小杉を、大人しくさせられるのは横澤だけだよなあと中学時代から密かに思っていた。


そんなうるさい同級生が去った今、ファミレスのボックス席に残されたのは俺と彼女。


情報を付け加えるなら、同級生。

さらに加えるなら、元恋人。


まあ、普通の関係ではない、どちらかというとネガティブな関係だ。



「熊沢帰る?ここの代金は明日横澤から徴収するし、遅くならないうちに帰んなよ」


送ることはできない。

俺が彼女の元カレである以上。

彼女に今溺愛する彼氏がいる以上。

俺にも愛しい彼女がいる以上。



「んー、何か食べようかな」

「いいのかよ、おい」


俺の最大限の気遣いを。

メニュー表に目を落としたまま、彼女は淡々と告げる。


「連絡して、彼が迎えに来てくれるから。1人で外に出るより、福山と店内いてくれたほうがいいって」


……ほー。

これはまた信頼されているようで。


まあ、そりゃ店内はよくあるチェーンのファミレス店。個室じゃあるまいし、一応ふたりきりという空間ではなく、不特定多数の目もある。



「それに勉強してきて疲れてるのに、突然の呼び出しに応じてやってきたんだからこれくらいいいでしょ!」


空腹には勝てません!と言い捨てて彼女は勢いよく呼び出しフォンを押した。


「……」


急に呼び出した手前、何も言えない。



彼女は飛んできた店員に流れるようにネギトロ丼を注文。デザートもつけるか悩んでいる。


その姿はいつぞやのデートでも対面した光景で、あの頃と何も変わらない彼女。




ーーーうん。大丈夫だ。