「蘭、起きろって」

「……」


名字を名前に変えても無反応。


となると、やっぱり言葉か。


ぐるぐると思考を巡らせる。

思い当たる節は………あー、なんか言ってたなあ。


しかも、ついさっき。


「………」

「………」


はあー……



「襲われてぇのかよ、蘭」


耳元でそう囁いてみると、彼女はバッと左手で自身の左耳―――俺が囁いた方を抑えて開眼した。


「何くだらねぇことしてんだよ」

「え、ちょ……寝たふりってわかってたの!?」

「わかってた」

「え、なんで」

「なんでも。つーか何言わせんだよ」

「え。それもバレてたの……」


部屋に入ってきて早々、彼女は正月のスペシャルドラマでお気に入りの俳優の役柄の台詞がかっこいいという話をしていた。


男女の幼馴染の恋愛ドラマ。

女の幼馴染が男の幼馴染の部屋でうたた寝をしているシーンで、男の方が女に向かって囁いたセリフ。「瀬戸くんにあんなん言われたら即座に起きて抱いてって言う!!!!!」とか何とか言っていた。


「俺は別に瀬戸くんじゃないから抱いてって言われなかったけど」

「え、いや、だって、」

口ごもる彼女の顔は林檎のように真っ赤だ。