“好きだよ”
ずっと脳内で、同じ言葉がリフレインしている。
「え、……と」
「……」
うつむいたまま声が出せない私を見て、彼は無言で私の右手をとり、歩き始める。
どこ、いくの。
声に出ない不安。知らない人に見える彼が、すこし、こわかった。
「翔、」
突然立ち止まった彼がこぼしたその名前を聞き取り、ようやく顔をあげることができた。
「……よぉ。おつかれ」
気まずそうに顔を引きつらせた福山の姿を捉えて、安堵の息を吐いた。
その様子を見られていたのか、
「翔、こいつ家まで送ってやって」
彼は私の手を、ゆっくりと離した。
「え、おい」
「あとこれ」
バサッと今まで彼が右腕に抱えていた福山のブレザーを押し付けるように持ち主へ渡す。