成すすべがなかった。

 男は諦めてもお腹の子は育つ。事務所は堕胎を勧めたが、結局、麻美は周囲の反対を押し切りシングルマザーの道を選ぶこととなる。その子供が晶子《あきこ》――後の田母神京だ。

 子供を産んだものの、先が見えない日々が続いていた。仕事も代わり映えせず、エキストラ役で駆り出されるのが関の山。セリフのある役なんてほとんど貰えない状態。アルバイトで日銭を稼ぎ、何とか晶子にご飯を食べさせていた。

「女優を辞めようってそう、ほとんどそう決めていた時にね、出会ったのが健吾さん――つまりあなたのお父さんなの」

 麻美は近所の公園のベンチで佇んでいた。晶子を寝かしつけた直後の束の間の休息。藤棚があるお気に入り公園で、偶然にも健吾の会社のすぐ近くだった。

 昼時で、健吾も外に出てきていた。研究に没頭する日々。昼くらいは外に出ることを心がけていて、健吾もまたこの公園で、通勤途中にあるパン屋で買ったパンを食べるのが日課だった。