「違うよ」

 不意に頭上で幼い女の子の声がした。目を見開き、首をねじれば、辛うじてブシの顔が視界に入った。作務衣を着て、髪の毛はちょんまげのよう。着の身着のまま、ボクの家からこの家に移動してきたということか。

「ブ、ブシ……」

 ブシはしゃがみこんで、ボクの視線に合わせようとした。

「ブシ、逃げるんだ」

 もう一度、そう言った。

「落ち着いて」
「逃げろ……」
「大丈夫だよ。落ち着いて――ユイ」

 ブシにユイと呼ばれたところで、ボクの体から力が抜けた。