「ブシを渡せ……」

 何が――何も聞かずに帰れだ。何が全てうまくいくだ。

 全然違う。そうじゃない。

 マユが傷つけられた。この事実は変えられない。例え、マユの母親のノリコさんでも許されることじゃない。今までずっと信じてきたのに。感謝もしてきたし、恩もずっと感じてきたのに。

 こうなれば、意地でもブシに会わなければ気が済まない。ブシに会うには2階に上がる必要がある。

 男はリビングの入り口付近に立っている。ここを通らなければ2階に続く階段には辿りつけない。

 ボクは強引に男を退かして、道を作ろうと思った。しかし、そうは簡単に問屋は卸さかった。