いや、そもそもさらうことまでは求めていなかったのかもしれない。ほんの少し脅すことができればよかったのだ。少しでも危機を感じさせさえすれば、賢いブシはあの手紙の通り、ボクたちに内緒でノリコさんに助けを請う。

 その時こそが絶好のチャンスだ。そのままブシをさらい、知らぬ存ぜぬを貫き通せばいい。

 この計画を成功させるための肝は――ボクたちにブシとノリコさんのつながりを知られないこと。

 だからブシに武士のいでたちをさせて、"知的障害"というカモフラージュの鎧で固めた。

 あとはボクたちに素性を話さないよう、もっともらしい理由をブシにたらし込めばいい。実際、ブシは一言もボクやマユに、名前や住所のような個人情報は口にしなかった。