しばらく眺めていたかったが、長居は無用だ。ボクは息を殺して、隣の和室との襖を慎重に開いた。

 畳が敷かれているだけの部屋だった。綺麗に掃除はされているが、何かに使われているという感じではない。もちろんブシの姿もない。

 マユの父親は長期で海外赴任をしている。大きな企業に勤めていて、何でも海外のインフラを整備する仕事をしているのだとか。仕事が一段落するとまた別の国に行くという塩梅で、ボク自身、会ったのは今まででたったの数回。その父が和室を使うかどうかは分からないものの、それでも余っている部屋を見ると、何とも寂しくなってしまう。