「あの……トイレ借りていい?」
「え? どういうこと?」

 苦し紛れに口から出た言葉に、ノリコさんは虚をつかれた顔をした。

 当たり前だ。ボクの家は二軒隣。慌ててトイレに行きたいのであれば、インターフォンを押して、誰かが出てくるのを待つよりも、自分の家に走った方が間違いなく早く用が足せる。

「あぁ……ボクがちょっとした用事で外に出ている間にマユがね、ボクの家を施錠してしまってて……でも、マユと連絡がつかないんだ。だからノリコさんの家でトイレを借りようかと思って」

 とっさに出た割にはマシな言い訳。少しだけ自画自賛。