――間に合え。間に合ってくれ。

 全てがゆっくりに見えた。目を見開いた女の顔。何がそこまで彼女を狂わせたのかがボクには理解ができない。

 女の鋭角に曲げられた肘の角度が開いていく。それに従い、ナイフの先端がマユに近づいていく。

「届けぇぇぇ!!」

 目一杯手を伸ばす。狙うは繰り出されたナイフの刃先。マユの体のすぐ近く。

 理屈じゃない。反射だ、直感だ。いや、もう本能と言ったっていい。届くのなら、ボクの手のひらでナイフを受け止めたっていいと思っている。それくらいの強い気持ち。

 そして――ゴツッという確かな感触が手のひらに伝わった。