「マユ!!」

 マユの顔を見て、血が伝い赤く染まる手の甲を見て、再びボクの体中に熱を籠もった。

 火事場の馬鹿力という奴だろうか。次の瞬間には、ボクは男を地面に叩きつけていた。体育で少しだけ習った柔道の技のように、足をかけて振り払ったのだ。もちろん実戦で意図的に使えるものじゃない。単なる偶然に過ぎない。

 弾みでナイフが男の手から離れ、床を滑った。そのナイフが女の足に当たって止まったのは何の因果なのだろう。

 すかさず女がナイフを手にした。背筋に冷たい汗が這った。女の目がすわっているのがボクの目から見ても明らかだったからだ。