マユの手を振り払い、男に近づく。

「く、来るな。お前も……切るぞ。本気だぞ」

 ボクに向かって男がナイフの刃先を向けた。

「それがどうした」

 ボクは歩を止めない。

 マユはボクにとって唯一無ニの存在だ。小さい頃から周囲に距離を取られていたボクに対して、マユだけは何も変わらなかった。

 ユイ、一緒に帰ろ。ユイ、髪の毛結って。ユイ、宿題忘れた、ノート写させてよ。ユイ、ユイ、ユイ……。何でもユイ、いつでもユイ。

 周囲が白い目で見てることも陰口を叩かれていることもマユは知っていたはずだ。それでも、いや、だからこそ、マユは毎日ボクの前に現れてくれた。