2度3度引っ張り合いをして、諦めたのか、女はブシの手を離した。

「ごめん」

 女が男にそう言うのが聞こえた。

 男女はそのままマユの横を抜け、走り去っていった。

 一瞬で静寂がボクたちを包んだ。ようやく息を吐き出した。肩の力も抜ける。

「ブシコ、大丈夫?」

 マユがブシに走り寄る。膝を曲げ、ブシを胸の中で抱きしめる。何度かブシがうなずくのが見えた。

「よかった……。本当によかった」

 ブシも必死にマユにしがみついている。ボクにはそれが少し羨ましかったりもした。