「ということだから、その子はボクたちの大事な大事なお客さんだから、返してくれるよね?」

 ボクはゆっくりと、でも決して止まることなく距離を詰め続ける。

 ブシまでまもなくという距離まで近づいた。ブシの目に涙が浮かんでいるのが見て取れた。まだ幼い女の子だ。怖くないはずがない。

 大丈夫。言葉にせず唇だけでそう伝える。ブシが軽くうなずくのが見えた。ボクを心配させまいと思ったのだろう。顔を少しだけほころばせたのが嬉しかった。