マユの美貌を見て、従業員の態度が一変した。男は美人に弱いという典型的な例とも言える。

「何かお困りではないですか? お手伝いすることがあれば遠慮なく言ってくださいね」

 両手を胸の前に持ってきてニヤニヤする様は、まるで悪代官にゴマをする呉服問屋かちりめん問屋の主人のようだ。

「いえ……大丈夫です」

 行こ。マユがボクの手を握る。
 少し離れたところでマユがボクの耳元でそうつぶやいた。

「何かニタニタして気持ち悪い職員だったね? それに迷子をお探しですか? なんて聞かれても困るしね」