武士の体と玄関のドアまでの距離と隙間を睨みつつ、でも、家に入ってしまえば万事済む話だろうかと、どこからともなく着眼点の歪つさに気づき、ようやくボクは立ち止まったのだ。

 家に入る入らない以前に、玄関前に武士が立っていたとあれば、ご近所様はどう勘ぐるのだろうかと。 

 冷静に考えればごく当たり前の疑問だ。でも、それがすぐに思い浮かばない時点で、ボクはある種の異常心理にとらわれていたと言わざるを得ない。

 ボクは困った時には頭をかく癖がある。ご多分に漏れず頭をかこうとして、手から下げていたビニール袋がシャララと鳴った。目を向けると、丸いプラスチック製のケースが2つ入っているのが目に入った。