「どっちに?」
「そりゃあブシコでしょ?」
「……マユタンでござる」

 黒塗りの怪しい車が進行方向の少し前の道路脇に停まった。何だろう。怪訝には思った、その時は進路を変えるでもなくそのまま進んだのだという。

 丁度車の横を通った時、不意に助手席のドアが開いた。サングラスをした男の顔が見えた。まだ若そうな男。多分、20代。一瞬のことだからその程度の認識しかなかったが、車を見た時から危機感を感じていたから、マユはとっさに身構えた。