ノリコさんがいたから寂しい思いはしなかったものの、だからと言って、周囲にノリコさんをお母さんだということはもちろんできない。そんな分かりやすい嘘はつきたくなかったし、第一、マユに失礼だ。

 ボクは母親がいないという事実を小さい頃から排斥していた。クラスメイトがボクに度々母親のことを聞いてきても、からかっても、ボクは知らない、興味がないと言い続けた。

 どんな怪訝な顔をされても、呆れられても、そういう態度しか取れなかったのは、現在進行形で父はボクに母親の情報を一切、語ったことがなかったからだ。