家の前に――武士がいた。

 時代劇に出るような羽織袴姿ではなく作務衣のような服装で、頭を剃っているわけではないが、後ろで1つに束ねた髪を折り曲げて頭頂部に乗せた髪型は、なるほどちょんまげに見えなくもない。腰に得物を携え、威風堂々といった佇まいには貫禄さえ感じさせられるものの、さりとて玄関前に立ち尽くしている武士の横を何事もなかったかのようにすり抜けて家に入るだけの度胸と度量を、あいにくとボクは持ち合わせてはいなかった。