「イケメンである必要ないんだけどね」
「華があった方がいいんじゃないの?」
「いくら顔立ちがよくても、緊張して動けないとか、台詞が覚えられない人は困る。大事なのはお芝居に対する姿勢と、どんなお芝居ができるかってところ。苦手なら苦手なりに頑張ってくれる人は、この限りではないよ? なにごとも経験。最初から上手くできるわけ、ないんだし」

 だけど悠長なこと言ってたら廃部の未来が待っている。そりゃあ焦りもする、ときりは叫びそうになり、言葉を呑み込んだ。

「ハッキリ言うねぇ」
 真琴が一時間目の授業の用意を取り出す。予習をしてこなかったようで、今からノートに教科書の英文を写すらしい。
「その点、西条くんは適役だと思ったよ」
「カッコいいし。舞台慣れしてるし?」
「それはそうなんだけどね。さっきほんの少し話してみただけで、“自分の魅力”よく理解してるなってわかったもん」
「……なんか吉川さんのイメージ変わった」
 真琴の言葉に、自分のイメージとは、と首を傾げるきり。

「悪くとらないでね? もっと、ボーッとしてる子だと思ってた。天然っていうか」
「天然!?」
「いや、天然には違いないと思うんだ。でもね。なんていうか、好きなことになると熱くなるタイプなんだなーと」
「べ、別に私は天然じゃ……ない!!」
「いや絶対天然だよ。賭けてもいい」

 賭けてもいい、なんて自信満々に言われる意味がわからず困惑しているきりに、「その反応だよ」クスッと笑う真琴。
 そんな真琴を見て、きりは思う。
 美人で、感じがよく、明くハキハキと話す小野寺真琴は実に魅力的だ。こんなことを本人に告げていいものかわからないが、男役も似合うだろう。もちろん褒めている。この学校で特にハードだと噂の女バスに所属していなければ猛アタックしていたのにな、と。
 
「焦ってる。もう部活決めちゃった子多いだろうし」
 新入部員の勧誘は四月早々から始めた。それが五月第一週に入った今まったくの成果なしというのも、いかがなものだろうか。
「あたしもそうだけどさ、部活って中学でやってたの続けてる子も少なくないよね。運動部と吹奏楽部は特にそんな感じしない?」
「そうだね」
 やはり狙うは帰宅部員である。

「演劇部って、あたしの中学なかったから。いまいち活動内容にピンとこないっていうか。普段は練習して、学祭とかで発表する感じ?」
「うん。もちろん学祭は、演劇部にとって一大イベントのひとつだよ。だけど、大会もあるよ!」
「そうなんだ。知らなかった」