「……後悔はしていないけど、それでもこの怪我が原因で選手生命を絶たれたのも事実だ」

「……、」

「リハビリさえすれば日常生活はある程度普通に送れるらしい。でも今まで通り走る事はできないと医者に言われた。走ることでしか——、自分を表現できないのに、それしか持ち合わせていないのにどうしろって言うんだよ……、もう生きる意味なんてないだろっ、」


 それまで抱え込んでいたありったけの思いを吐露した彼は、こうべを垂れ静かに涙していた。頰を伝う雫が屋上のアスファルトを濡らしていく。

 彼にとって陸上とは、彼と言う人間を語る上で欠かせない要素の一つなのだろう。

 そしてそれだけ陸上に全てをかけてきたからこそ、余計に悔しさが募るのかもしれない。

 そんな彼には僕がずっと誰かに言って欲しかった言葉を送ろうと思う。


「確かに君の夢は破れてしまったかもしれない。だけど本当にその夢はたった十数年生きただけで”一生ものの夢”だったと決めつけてしまえるものなの?」


 まるで追い討ちをかける様にそう口にしたのは彼に顔を上げて欲しかったからだ。

 固執する程大切にしてきたものを頭から否定されれば、誰だって顔を上げるだろう。