そしてしばらくすると僕はまた、自分の名前を呼ばれた。

僕の名を呼ぶその声に、僕は返答し立ち上がる。

 再び登壇した僕は書いた覚えなど全くない、僕の字で書かれた“卒業生代表挨拶”文を読み上げ始めた。

 練習したことなど一度もないはずなのに、何故かその文章はさらさらと読めてしまう。


 「やわらかな日差しが心地よく、春の訪れを感じる季節となりました。この良き日に、私のために盛大な卒業式を挙行してくださり、誠にありがとうございます。厳かに卒業できることを卒業生を代表し、厚く御礼申し上げます——」


 この場所に来てから何だかとても心が穏やかで、澄み渡っていくような感覚を覚える。

久しく味わうことのなかった温かな気持ちは心地よく、何故だか優しかった頃の母さんの温もりを思い出す。

 変わり果てた僕を見て、母さんは泣いてくれるだろうか。

ほんの一瞬でも昔の様に僕に関心を抱いてくれるだろうか。——いや、もうそんなことはどうだっていいじゃないか。

 再婚後、僕を視界に入れなくなった母さんが、あれほど憎らしかったはずなのに穏やかな気持ちとなった今ではそれまで抱いたことのない感情が湧いてくる。