それは僕がこれまで何よりも欲していたモノだったのかもしれない。

それがまさかこんな形で叶えられるとは予想だにしていなかった。

 僕にもあったのだ“ホーム”という帰るべき場所が。


「卒業おめでとう。そして——、おかえり。僕らのファミリー」


 その言葉を僕はどれほど待ち焦がれていたのだろうか。

 チームメイトからもクラスメイトからも虐げられ、実の親でさえも僕のことをまるで透明人間の様に扱うものだから、僕はずっと僕と言う人間を認めてくれる相手を求めていたのかもしれない。


「これで君の質問には全て答えたよ。まだ何か質問があるなら答えるけど、どうする?」

「いえ、質問はもう大丈夫です」

「そう。それは良かった。それじゃあ、君のための卒業式を再開するとしよう」

「……僕のための?」

「そうさ、君のためだけの卒業式だよ。さあ、主役はあそこに」


 そう促された場所には、先ほどまで存在していなかったはずのパイプ椅子が一脚だけポツリとフロアの上に置かれていた。

 何の迷いもなくと言えば嘘になるが、僕はそこにまるで導かれるかの様に腰を下ろした。

 何故か頭の中に次のイメージが浮かび、自分がやるべきことが浮かんでくるのだ。