ほぼ反射の様にそれを受け取ると、そこには“あなたは苦悩と試練の連続を身を以て経験し、弱冠十六歳にして自ら現世からの卒業を選び、それを遂行したことをここに証する”と書かれていた。

 卒業証書を受け取った僕はとりあえずその場でお辞儀をする。すると、黒い靄も同じ様にお辞儀を返してきたのだ。

 そこで僕はこの黒い靄に話しかけてみることにした。

どうせこの場所自体が夢見たいなものだし、そもそも僕は予定ではもう死んでいるはずだ。

だったら何も怖がる必要などないのではないだろうか。


「あの、あなたは一体何者ですか? ……そして、ここは一体どこなんですか?」


 すると黒い靄はどこから声を出しているのかは不明だが、確かに空気を震わせ返答した。


「わたしには君たちで言うところの“名前”と呼ばれる記号はないけれど、みんなはわたしのことを“導師”と呼んでいる」


 黒い靄、改め導師はさらにこの場所についても教えてくれた。


「そしてここは、魂の門出を祝う場所。覚えてなどいないだろうけど、君がここにくるのは実は初めてではないんだ」

「え、」


 導師は何とも衝撃的なことを口にする。


「覚えているはずなんてないか。何たって初めて君がこの場所に来たのは、君が現世に——この世に産み堕とされた日なのだから。言ってしまえば、ここは君のもう一つのホームと言う訳だ」