どちらかと言えば、本来自分と言う人間は明るくハキハキとものを語る人間だったはずなのに、環境は人を変えるのだと身を以て知った。
だからこそ僕にもまだこんな声が出せたのかと、何だかとても晴れ晴れとした気持ちになる。
これほど穏やかな気持ちになれたのはいつ振りだろうか。
そう言えば、先ほど僕の名を呼んだ声は壇上の方から聞こえてきたようだ。
そこに行けばここがどこなのか分かるかもしれないと、僕はその声のする方へと右足を一歩踏み出した。
「あれ?」
その途端、僕は一種の違和感を覚えた。
震える手でまさかという思いを込めつつ、足に触れてみる。
「……嘘みたいだ、」
後遺症が残ると医者に言われるほど、大怪我していたはずの足の傷が跡形もなく消えていたのだ。
——“叶うのならもう一度だけ、トラックを走りたい。”
確かに僕はそう願った。その願いがまさか聞き届けられたのだろうか。
軽い足取りだが壇上へと続く道を、一歩一歩自分の足で歩くと言う自由を噛み締めながら僕は歩き出した。
壇上の前に立つと黒い靄(もや)の様な何かが「卒業おめでとう」と、卒業証書をこちらに差し出してきた。