時刻は午前六時。朝の屋上を訪れた僕は、もうそこには誰もいないことを知っていた。
「——ようやく僕の番だ」
もう誰も僕の行く手を阻む者などいやしない。それを望んでいたはずなのに何故だか僕の目からは涙が溢れて止まらなかった。
その理由を僕は、彼らを通して得ようとしていたのかもしれない。
だけど結局、僕にはその答えを見つけることは出来なかった。
ただずっと誰かに止めて欲しかったのかもしれない。
何たって彼らに放った言葉はどれも、本当は僕が誰かに言って欲しかった言葉なのだから。
もしも僕が、足の故障が原因で夢破れただけだったら、
もしも僕が、学校でいじめを受けているだけだったら、
もしも僕が、悲惨な家庭事情に悩んでいるだけだったら、
答えは違っていたのだろうか。
いや、きっと僕は何度でも同じ選択をすることになるだろう。
いくら条件を変えたところで初めから無駄だったのだと気付かされる。
だって僕は僕でしかないのだから。
松葉杖をフェンスに立て掛け、自由の効かない右足を引き摺りながら何とか腕の力と無事な左足を使いフェンスをよじ登った僕は、最後くらい俯きがちだった顔を上げ、僕の生涯における最後の舞台をこの傷だらけの身体で精一杯演じ抜いて逝こうと思った。