春休みが終わり新学期を迎えた今日、僕はずっと考えていたことをついに決行しようと学校の屋上へと足を向けた。

 クラス替えの紙が張り出された掲示板など目もくれず、立ち入り禁止と書かれたプレートがぶら下がるチェーンを乗り越えて、僕はひたすら階段を登る。

 だけど息を切らしながらもようやく辿り着いたその場所には、まるで僕の行く手を阻む様に今まさにフェンスを乗り越えようとする先客がいた。

 その背中につい声をかけてしまったのは何故だろう。


「……ちょっと、待って。一旦落ち着こう?」


 僕の声に一瞬驚いた様な表情をしたその少年は、右足をかばう様に松葉杖をついていた。

 日に焼けた健康そうな肌を覆うギプスは、何だか彼には不釣り合いに映る。


「邪魔しないで。もう決めたことだから」


 声をかけた手前、「はい、そうですか」と突き放すわけにはいかず、仕方なく口を開く。


「なんでこんな事、——自殺なんて」

「別に。君には関係ないでしょ」


 自分でも思わず笑ってしまう様なセリフを吐いた自覚はある。

 自分だってそのつもりでここに来たくせに、何を言っているのかと聞いて呆れる。

 
「確かに関係ないけど……、もう決めている事ならせめて理由だけでも聞かせてくれてもいいじゃん」