鼻腔を擽るラベンダーの香りが浮き足立った僕の気分を落ち着かせてくれ、次第にリラックスモードへと切り替わる。

 すると幾分か落ち着きを取り戻した僕は、先ほどまで盛り上がっていたはずの気持ちが途端にしぼみ始めた。

そして僕がこの世を去った後のことを考える。


——屋上から飛び降りた後、僕の身体はどうなってしまうのだろうか。


 冷静にものを考える時間が持てると、こうした事を考える余裕さえ生まれるのかと何だか不思議な気持ちになる。

 そして同時に、これまでの生活がどれだけ切羽詰まったモノだったのかと思い知らされるのだ。

 そんな感傷的な思いも全て綺麗さっぱり洗い流すように、張っていたお湯と一緒に線を引っこ抜き排水溝に流してしまう。

お湯が抜けきったのを確認すると、先ほど調べた知識をもとにユニットバスの外側に垂らしていたシャワーカーテンを、今度は内側へと引き入れる。

それから入念に身体を隅々まで丁寧に洗い、僕は人生最後となる入浴を終えた。

 ベッドルームに戻った僕は男女兼用のスリーパーパジャマに袖を通し、浅くベッドに腰掛けながらタオルで髪の毛を拭き上げる。

 水分を含んだタオルをその辺に適当に放り投げると、ベッドに寝転がり天井を見上げた。

そして、ようやく息がつけた気がする。

 僕の終活も終わりが近付いてきているのだと、自分に言い聞かせる様にそっと目を閉じた。