今だって、昨夜の“魔の金曜日”から逃れる為に夜間家を空け、帰宅したばかりだというのに体を休める暇もなく、数時間後に帰宅してくるであろう男と鉢合わせる前にこの家を出る必要があった。

 気力だけで何とか風呂場まで辿り着き、熱いシャワーを頭から思いっきり被る。

 全て夢だったらどんなにいいかとそんな事ばかり考えてしまうのは、この世にまだ未練があるからだろうか。

 一瞬思考を巡らせてみたが、やはりそんな事はなかった。

 むしろ逆だ。僕は一刻も早くこの世界から離脱したい。僕の思考が正常なうちに正常なまま最後を迎えたいのだ。

 疲弊しきった体と頭ではもはや今現在、正常な思考が出来ていると言って良いのか定かではないが、熱いシャワーを浴びたことでいくらかまともな考えが浮かぶ様になった。

 それから服を着替え、再び外出する用意を終えて僕は家を出た。

 コンビニでしばらく漫画や雑誌を立ち読みし、時間を潰す。内容なんかちっとも頭に入って来やしないのに無意味なその行為を僕は繰り返す。

 その後、近くの小さな遊具が三つとベンチが二脚置かれた小さな公園で空を眺める様にしてただただぼーっとして過ごしていた。

 もうすぐこの世から消えて無くなるという実感は全く湧かないまま、時間だけが過ぎていく。

それどころか黄昏時になると不思議と食欲さえ湧いて来て、僕は駅前のファミレスへと向かった。