「——まただ」


 帰宅すると決まって机の上には、小遣いにしては多すぎる額が毎度置かれている。おそらく母さんが置いているのだろう。

僕のことを無視する割に、こうして軍資金は寄越してくる。

 大方、この家から餓死死体が見つかる事は避けたいのだろう。

 毎週金曜日、会社の同僚との飲みだとかで酔っ払って返ってくるあの男は、帰宅すると途端に豹変する。

男は普段の温厚そうな顔からは想像もつかないほど、攻撃的かつ暴力的な顔を持っているのだ。

 日々の鬱憤でも晴らす様に僕に暴言を吐いた上に、暴力を振るう。

 170㎝に少し足りない痩せっぽちな僕と、武道経験者で180㎝近くはある男とでは、その力の差は歴然だった。

 このままでは嬲(なぶ)り殺されると命の危機を感じた僕は、男と極力顔を合わせない様に帰宅時間をずらしたり、家を空けることで出来る限りの対策を行って自分の身を守るようになった。

 そして出来れば手をつけたくないこのお金も、食事代や身を潜めるために利用するマンガ喫茶やファミレス、イートインの導入されたコンビニ等を利用するための軍資金として使っている。

 とにかく毎日、生きることで必死だった。

 だけどもう生きる気力を——この世に留まり続ける理由を失った今、そんな事はどうだってよかった。