一瞬息ができないほどの痛みが走り、再び通い始める酸素のせいでゲホゲホと咳き込む僕を男は上から見下ろしていた。

 その後どれだけ痛めつけられていたのか記憶がないのは、途中から考えることを放棄して、意識を飛ばしていたせいかもしれない。

 次に目が覚め時一体あれは何だったのだと、まるで現実味のない出来事に僕はただただ呆然としていた。

 何とか起き上がろうと体を起こすも、男に痛めつけられた患部が想像を絶する痛みを伴っており、僕は悶絶する事しか出来なかった。


「うっ……、これは悪い夢だ。……早く覚めろ、早く——」


 そうやって自分に言い聞かせることくらいしか、今の僕には何も出来なかった。


——そして、この出来事こそ僕が“金曜日”を嫌いになった所以である。


 それからと言うもの、お酒が入ると攻撃的になる母親の再婚相手は毎週金曜日の夜は、決まって会社の同僚と飲みにいくという一つのサイクルが出来上がりつつある。

 一方その後の僕と言えば、男の暴力から逃れる為に極力顔を合わせないように、息を潜める様に暮らしていた。

 あの日から僕にとって帰る場所であった筈のこの家は、僕の家ではなくなった。

あの男による絶対君主制が敷かれたこの家から僕は追放されたのだ。