そう言ってまた寂し気に笑ったであろう彼の顔が、ぼやけた視界に映る。

 こちらに背を向け歩み出した彼が「そう言えば」と、再び僕に声を掛けた。


「君の話を聞き忘れていたね」


 そんな口約束なんていっそ忘れてくれてよかったのに、どうやら彼はとても律儀な人の様だ。


「どうする? 君さえよければ聞かせてよ」

「……せっかくだけどやめておく」

「そっか」


 彼の申し出を受けていれば、少しは楽になれたのかな。

 天の邪鬼な僕はせっかくの彼の申し出を、やんわり拒否する。


 ——お願いだからこれ以上、誰も僕の中に入ってこないで。


 自分は人に干渉してはここから追い返すくせに、自分の事となると途端に殻に閉じこもり、触らないでと締め出してしまう。

僕って奴は、なんて自分勝手で臆病者なのだろう。

 気付けば辺りはすっかり明るくなっており、グラウンドには自主練習に励む部活動生の姿が徐々にその数を増していた。