彼は言った。

 「きっと母さんは、お腹の子供を守るために不要になった僕を切り捨てた」のだと。

 「味方だと信じていたのに裏切られた」と、唯一の拠り所を失った彼の悲痛な叫びが僕にも伝播する。

 僕は知っている。毎日通う場所で居場所を失うよりも、毎日帰る——帰らなくてはならない場所で居場所を失った時の方が何倍も辛く苦しいことを。

 同じだから。彼は——僕だ。

 彼の苦しげに吐き出されるもの全てに同調し、共感し、伝播してしまう。

その苦しみが理解出来てしまうからこそ、僕はどうしようもないくらい無性に泣きたくなった。

 だけど僕は自分勝手な人間だから。自分勝手な僕は歯切れ悪く口を開いた。


「君がここに来た理由は分かった。話してくれてありがとう……」

「ううん。こっちこそ聞いてくれてありがとう」


 彼は僕がこのあと何を言おうとしているのか、何となく分かっていた様な気がした。


「……悪いんだけど、頼むから僕の目の前で飛び降りるのはやめて欲しい。君を見ていると自分を見ている様で何だかとても苦しいんだ」


 目頭が熱くなり、今にも泣き出しそうな自分の声が鼓膜を震わす。


「分かった。ここまで話を聞いてくれた君に免じて、今日はやめておくよ」