「もしも君に、時間があるのなら僕の戯言に少しだけ付き合ってくれない?」
「……君がここに来た理由だね」
「そうだね。もしもお節介でないのなら、君の話しも聞かせてよ」
この屋上を訪れる様になって、初めて僕の話に触れてくる人物と出会ったかもしれない。
初めから彼の話を聞く気でいた僕は、彼に話す様に促した。
「ありがとう」とお礼を口にした彼は、この場所に来た理由をポツリポツリと話し始めた。
「僕の家は所謂、母子家庭で父さんは僕が小さい時に亡くなったらしい。僕は父さんの顔をあまり覚えてはいないけど、とても優しい人だったと聞いている。僕たち親子は決して裕福と言える生活ではなかったけど、それでも僕はそんな毎日がとても好きだったんだ」
そう語る彼の顔はとても穏やかで、母親との二人だけの生活は彼にとって満ち足りたものであったことが伺える。
「一年位前に母さんが再婚して、それから程なくして母さんの再婚相手との同居が始まった。初めの内は、うまくいっていた気がする。ぎこちなくはあったけど、何とか“家族”って形にまとまろうと頑張っていた」
血の繋がりを持たなくても、十分“家族”として成り立っている家庭はいくらだってあるだろう。
それでも物心ついた後に増える家族と言う名の他人を、僕たちはどう受け入れれば良かったんだろうか。