翌日、再び屋上を訪れた僕は今日もまたその場所に先客とおぼしき人物が居たことに若干辟易しつつも仕方なく声をかける。


「どうしたの?」

「……、」


 俯きがちなその少年は、思い詰めた様な表情で重い口を閉ざしていた。

 そこで僕は努めて柔らかい口調で彼に問いかける。


「僕でよければ君の悩みを聞くよ。良かったら話してみてよ」


 すると彼は、今にも消え入りそうな声でぼやいた。


「……君に話したところで何になるって言うんだよ」


 彼の言葉はもっともだった。だけどこの場から彼を立ち去らせたい僕は、彼に促し続ける。


「確かにそうだね。でも話せば少しは楽になるかもしれない」

「いや、遠慮する。別に君に話さなくたって、今すぐここから飛び降りれば楽になれるから」

「ふーん。なるほどね」


 捻くれ者はなおも僕の提案を拒否し続ける。


「だったら僕が先に飛び降りるから君はそこで見ててよ」

「——え?」


 予想外の僕の提案に彼は戸惑いの色を濃くした表情を浮かべている。


「後味悪いだろうな。残された側って」


 にんまりと笑う僕は、別に彼がこの話に乗ってこなくたってよかった。