沈黙が再び流れた。


「……夏祭りの日に来てくれたら教えてあげるよ」


 夏祭りの日、俊太は本当に来ないのだろうか。
 もう三人で、肩を並べて歩くことは出来ないのだろうか。

 私は、どうすれば……。


「俊太は、本当に来ないと思う?」

「本人はそのつもりみたいだよ」

「そっか……」

「僕も残念だよ。俊太とはとても仲良くなれたのに。この夏最後の思い出は、三人で作りたかった」

「二人で俊太を迎えに行ったら、俊太は怒るかな」

「俊太は決めてほしいんだよ」


 佳くんが窓の外を見つめた。
 外はもう日が落ちかけていて薄暗くなっている。


「僕も、君の気持ちを知りたいな」


 突然、ばらばらと大粒の雨が屋根を打ち付けだす。
 夕立が本格的に来たようだ。


「私は二人とずっと仲良くしていきたい。どちらか片方だけなんて嫌だよ……」

「どちらにも行かないっていうのも面白い結末だよね」


 佳くんが明るく笑って私を見た。


「そんなに深刻に考えなくていいと思うよ。当日になって、君が何となくこっちだって思った方に行けばいいんだ。どちらにも行きたくなければ、来なくてもいいんだよ」

「そんなに簡単に?」

「そう。僕たちは君の正直な気持ちが知りたいわけだから、遠慮しないで、君の思うがままに動けばいいのさ」


 彼の柔らかな笑顔に、少しだけ心が軽くなる。


「もし僕が選ばれなくても、相手が俊太なら、我慢できるよ」

「……」

「なーんて、かっこいい事が言えたらいいのだけれど……。我慢はできるかもしれないけど、できれば選ばれたいっていうのが本音かな」


 そして佳くんは、真っ直ぐに私に向き直って告げた。


「だって、僕は君が好きだもの」


 今、彼は何と言ったのか。


 頭の中が真っ白になるとは、こういう事なのだろう。


「言っちゃったね。好きだよ、螢ちゃん」


 好き? 誰を? 私を? 誰が――?


 佳くんの瞳は、こちらが逸らしたくなるほどに真っ直ぐだ。


「何度でも言うよ。だって、俊太に負けてしまいそうだもの。僕たちの過ごした時間は、俊太と君の過ごした時間よりも、ずっとずっと短いから。だから、君には僕のこの想いを、何度も聞いてほしい」


 佳くんが、私を、好き……?
 身体中の熱が、一気に顔に集まってくる感覚。

 私は今の状況に耐えきれず、佳くんから身体ごと逸らしてしまう。


「駄目だよ、こっちを向いて。僕を見て」