見慣れた優しい笑顔で私を見る。

 その優しいけれど強い眼差しから逃げたくなるのは何故だろう。


「……うん」

「今は内緒」


 ふっと力の抜けた目元に、胸の奥を掴まれたような感覚を覚える。

 佳くんは微笑んだまま、ドリンクを持ってこようよ、と言って立ち上がった。
 私も返事をして立ち上がったけれど、あれ? どこを見ていいのか分からない。

 佳くんが近い?

 いや、違う。いつもと同じくらいの距離のはず。

 ん? いつもの距離って何? いつもはどのくらいの距離だった?

 どうしてこんなに彼との距離を意識してしまうのだろう。


 私、変だ。


 駄目だ、普通にしていなければ。佳くんに変な奴だと思われてしまう。

 しかしそう思っていても、その後も佳くんと視線が合う度に、何故だか不自然に瞬きの回数が増えてしまったりしていた。





 八月も下旬になり、夕方になると、蝉の鳴き声と混ざるようにして、鈴虫の声が聞こえてくるようになった。

 俊太の体調もすっかり良くなり、今夜は約束していた花火をするため、私たちは祖母の家に来ていた。

 祖母は、別人のように成長していた俊太と、垢抜けた雰囲気の佳くんを見て驚いているようだった。


「ほれ、食後にスイカでもお食べ」

「わあ、ありがとうございます!」

「いただきます」


 二人が祖母に笑顔で返してくれる。
 祖母はもう耳が遠いので、二人の笑顔を見ると「年寄りはお邪魔だからね」と優しく言って、別の部屋へ行ってしまった。

 私たちは引き留めたけれど、祖母は笑顔のまま首を振って行ってしまったのだ。

 食事も別々だった。久し振りに大好きな祖母と会えたのに、何だか申し訳ない気持ちになる。


「僕が居るから、遠慮させてしまったのかな」

「ううん、そんな事ないよ。もう高齢だから、最近は疲れやすいんだって。私と俊太が子供の頃とかは、一緒に遊んでくれたり話を聞かせてくれたりしてたんだけどね」

「懐かしいな」


 俊太が何かを思い出したかのように小さく笑った。


「まあ、それよりさ、打ち上げ花火と手持ち花火、どっちからやる?」


 私と俊太しか知らない祖母との思い出話を佳くんにしてもつまらないだろうと思い、私は花火が入った袋を持ち上げて二人に聞いた。


「俺はどっちからでも構わない。お前がやりたい方からやれよ。っていうか、もう始めるのか? 真っ暗になるまで待とうぜ」

「僕もどちらからでもいいよ。螢ちゃんの希望は?」

「うーん。そうだなぁ……。あっ!」